キャリアを動かしたいと考えたとき、限られた時間をどこに使うかで「資格を取る」と「実務経験を積む」の2つが並びます。結論から言うと、どちらを先に手をつけるかは向き不向きではなく、目指す仕事が、資格を持っていないと就けない仕事かどうかでほぼ決まります。ここが決まらないまま両方に手を出すと、時間だけが分散します。この記事では両者の違いを整理し、3つの基準で切り分けたうえで、「こういう人は資格から・こういう人は実務から」という形まで落とし込みます。
「資格を取る」と「実務経験を積む」は、そもそも何が違うのか?
この2つは、入口を開けるものと、中で評価されるものという違いです。先に一覧にします。
| 比較の観点 | A:資格を取る | B:実務経験を積む |
|---|---|---|
| 主に効く場面 | 応募の要件を満たす段階 | 選考で実際に評価される段階 |
| 成果の形 | 合否という明確な結果が残る | 担当した業務内容として説明する必要がある |
| かかる時間の見通し | 試験日程が決まっているため立てやすい | 配属や案件に左右されるため立てにくい |
| 本人の努力で進められるか | 進めやすい(学習は個人で完結する) | 進めにくい(担当業務の割り当てに依存する) |
| 失効・陳腐化 | 更新が必要なものがある | 年数が経つほど積み上がる |
| 持っていないと就けない仕事 | 存在する(業務独占資格など) | — |
表の最下段が、この比較の核心です。資格には「持っていないとその業務に就けない」ものと、「持っていると評価の材料になる」ものの2種類があり、両者はまったく別のものとして扱う必要があります。前者であれば資格は必須条件であり、比較の対象になりません。後者であれば、実務経験と並べて比較する意味が出てきます。この区別をしないまま「資格か経験か」と考えると、答えの出ない問いになります。
資格と実務経験、どちらを先に取るかを決める3つの基準
次の3つを順番に確認してください。基準1が最初に来るのは、ここで結論が確定する場合があるためです。
基準1:目指す仕事は、その資格がないと就けない仕事か
ここが最も判定力の高い基準です。資格が業務を行うための要件になっている職種であれば、判定はAで確定し、基準2・3を見る必要はありません。要件になっていない場合、その資格は評価材料の一つに過ぎないため、実務経験と比較する段階に進みます。実際の求人票の応募要件欄に、その資格が「必須」と書かれているか「歓迎」と書かれているかで確認できます。
基準2:今の職場で、目指す方向の実務を担当できる見込みがあるか
Bは自分の努力だけでは進まず、担当業務の割り当てに依存します。今の部署で関連する業務に関われる見込みがある、あるいは異動や社内公募で近づける見込みがあるのであれば、Bが機能します。見込みが立たない場合、Bは「待つ」だけの状態になりやすく、その待ち時間を学習に充てられるAのほうが前に進みます。
基準3:説明できる実務の蓄積が、すでにどれくらいあるか
目指す方向に関連する業務をすでに担当しているのであれば、追加で必要なのは経験の量ではなく、それを裏づける形式である場合があります。この場合はAが効きます。逆に、関連する業務の経験がほとんどない状態で資格だけを取ると、応募要件は満たせても、選考で説明できる材料が不足しやすくなります。この場合はBが先です。
3つの基準で見る、資格から始めるべき人・実務から始めるべき人
資格を取る(A)が向いているのは、次のような場合です。
- 目指す仕事が、その資格を持っていないと就けない職種である
- 今の職場では、目指す方向の実務を担当できる見込みが立たない
- 関連する実務の蓄積はあるが、それを裏づける形式が不足している
- 限られた時間の中で、自分の裁量だけで進められる手段を取りたい
実務経験を積む(B)が向いているのは、次のような場合です。
- 目指す仕事の応募要件で、その資格が必須ではなく歓迎条件にとどまっている
- 今の職場で、目指す方向に近い業務を担当できる見込みがある
- 関連する業務の経験がほとんどなく、説明できる材料が不足している
- その分野で評価されるのが、資格の有無よりも担当した業務の内容である
基準が割れた場合(例:基準1はB、基準2もB、基準3はA)は、Bを先に置くことをおすすめします。 資格は取得時期をずらしても価値が大きく変わりにくい一方、実務の機会はその職場にいる間しか使えないためです。今の場所でしか得られないほうを先に取り、どこにいても進められるほうを後に回す、という順番になります。ただし基準1がAで確定している場合、この規則は適用されません。要件を満たさない限り応募自体ができないためです。
資格か実務経験かを決める前に、先にやっておくこと
- 目指す職種の求人票を数件開き、応募要件欄でその資格が「必須」か「歓迎」かを実際に確認する。基準1はこの確認だけで判定でき、しかも結論を確定させる力が最も強いため、最初に置きます
- 基準2について、今の部署で関連業務に関われる可能性を、上司との面談や社内公募の有無から確認する。可能性の有無で判定が反転します
- Aを選ぶ場合は、試験日程から逆算して学習の期間を先に区切る。期間を決めずに始めると、基準2で得られたはずの実務の機会と並行して時間が削られます
- Bを選ぶ場合は、担当した業務を後から説明できるよう、関わった範囲と担った役割を記録に残しておく。経験は積むだけでは材料にならず、説明できる形になって初めて選考で使えます
よくある質問
Q. 資格と実務を同時に進めるのは現実的でしょうか。
A. 時間が確保できるのであれば成り立ちますが、両方が中途半端になりやすい点には注意が必要です。この記事の3つの基準は「どちらを先に置くか」を決めるためのものであり、もう一方を諦めることを意味しません。先に置いたほうに期限を設け、その期限が来たらもう一方に移る、という順番で扱うと分散を避けやすくなります。
Q. 資格を取れば、転職で有利になりますか。
A. 選考の基準は企業ごとに異なるため、一律に有利になるとは言えません。本文で触れた通り、資格には応募要件そのものになっているものと、評価材料の一つにとどまるものがあります。前者であれば「有利になる」ではなく「ないと応募できない」という位置づけです。後者の場合、資格だけで評価が決まるとは限らないため、基準3の実務の蓄積とあわせて考えることをおすすめします。
Q. 実務経験を積みたいのですが、今の職場では関連する業務が回ってきません。
A. 基準2が満たされていない状態にあたります。この場合に取れる順番は2つあり、1つは社内で担当を変えられないかを先に確認すること、もう1つは、その確認の結果が出るまでの期間をAに充てることです。関連業務に関われる見込みが立たないまま待ち続けると、基準3の蓄積も増えないため、待つこと自体を選択肢から外して考えるほうが前に進みます。
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執筆者情報
本記事は、選択コラム(複数の選択肢を比較して決めたい読者に向けた記事)の執筆方針に基づき、断定的な結論や効果の保証を避け、読者自身が判断基準を持てるようになることを目的として執筆しています。実在の監修者は現時点でいないため、執筆方針の明記のみを行っています。また、個人の体験談を結論の断定材料として用いていません。資格の要件・更新の有無は資格ごとに異なり、選考の基準は企業ごとに異なるため、実際の判断にあたっては各資格の実施団体や募集要項でご確認ください。特定の資格・講座・事業者を推奨するものではありません。

