転職先を絞り込む段階になると、どこかで「年収を取るか、やりがいを取るか」という形の迷いが出てきます。結論から言うと、この2つはどちらかを選んで、もう一方を諦めるものではなく、どちらを先に決めて、もう一方を後から確認するかという順番の問題として扱うほうが決めやすくなります。この記事では、年収を先に置く場合とやりがいを先に置く場合の違いを整理し、3つの基準で切り分けたうえで、「こういう人は年収から・こういう人はやりがいから」という形まで落とし込みます。
「年収を先に決める」と「やりがいを先に決める」は、そもそも何が違うのか?
この2つは価値観の優劣ではなく、先に決めた側が「条件」になり、後から確認する側が「許容範囲」になるという違いです。先に違いを一覧にします。
| 比較の観点 | A:年収を先に決める | B:やりがいを先に決める |
|---|---|---|
| 最初に固定するもの | 下限となる金額 | 携わりたい仕事の内容・関わり方 |
| 後から確認するもの | 仕事内容が許容範囲に入るか | 提示額が生活の下限を下回らないか |
| 判断のしやすさ | 数字で比較できるため判断が速い | 言語化が必要なため判断に時間がかかる |
| 間違えたときの気づき方 | 入社後しばらくしてから気づくことが多い | 比較的早い段階で家計として表面化する |
| 修正のしやすさ | 仕事内容は異動・担当変更で動く余地がある | 給与テーブルは個人の交渉で動きにくい |
| 向いている状況 | 生活の前提が動かせないとき | 金額の下限に余裕があるとき |
表の最下段の2行が、この比較の要点です。入社後に動かしやすいのは仕事内容のほうで、動かしにくいのは給与テーブルのほうだと言われます。異動や担当変更で関わる仕事が変わることはありますが、会社が定めた給与の水準そのものが個人の希望で変わることは多くありません。したがって「後から取り返しがつきにくい側」を先に固定しておくほうが、判断としては安全側に倒れます。
年収とやりがい、どちらを先に決めるかを分ける3つの基準
次の3つを順番に確認してください。基準1で答えが出る場合が多く、基準2・3は基準1で決まりきらなかったときに使います。
基準1:生活が成り立つ下限の金額を、すでに把握しているか
ここが最も判定力の高い基準です。固定費・扶養や住宅にかかる支出・返済がある場合の返済額を足し上げ、下回ると生活が回らなくなる金額を出します。この下限に対して現在の想定提示額の余裕が小さい場合、選ぶ余地は実質的にありません。判定はAになります。余裕がある場合は、Bを選ぶ余地が生まれます。
基準2:やりがいの中身を、他人に説明できる言葉にできているか
「やりがい」という語のままでは条件として使えないため、判定にも使えません。「誰の役に立つ仕事か」「どの工程を担当したいか」「裁量はどの範囲まで欲しいか」のうち、少なくとも1つを具体的に言い切れる状態であればBが機能します。言い切れない場合、Bを先に置いても比較の軸にならず、結果として提示額だけで決めることになりがちです。この場合はAから入るほうが判断の筋が通ります。
基準3:今の不満が、金額と仕事内容のどちらから来ているか
転職を考えた最初のきっかけを振り返ります。きっかけが「支出に対して収入が足りない」であればAです。きっかけが「担当している仕事の内容そのもの」であればBです。ここでAとBが基準1・2の判定と食い違う場合は、基準1を優先します。生活が成り立たない選択は、やりがいの有無にかかわらず続けられないためです。
3つの基準で見る、年収から決めるべき人・やりがいから決めるべき人
年収を先に決める(A)が向いているのは、次のような場合です。
- 生活の下限となる金額に対して、余裕が小さい
- 扶養している家族がいる、返済が続いているなど、金額を動かせない事情がある
- やりがいの中身が、まだ具体的な言葉になっていない
- 転職を考えたきっかけが、収入そのものへの不足感にある
やりがいを先に決める(B)が向いているのは、次のような場合です。
- 生活の下限を上回る見込みがあり、金額に一定の余裕がある
- 携わりたい仕事の内容・役割・裁量の範囲を、具体的に言葉にできている
- 転職を考えたきっかけが、担当している仕事の内容にある
- 金額の一部を、仕事内容のために調整してもよいと納得できている
基準が割れた場合は、基準1を優先してAから入ることをおすすめします。 Aで金額の下限を先に固定しても、その範囲内でやりがいを比較することはできます。一方でBを先に置くと、条件に合う求人が下限を下回っていた場合に、比較そのものをやり直すことになります。Aは範囲を絞る操作、Bは範囲の中で選ぶ操作であり、順番として絞るほうが先に来ます。
年収とやりがいの順番を決める前に、先にやっておくこと
- 基準1の下限額を実際に計算して書き出す。ここを概算のままにすると、提示額を見た時点で判断が揺れます
- 基準2について、「やりがい」を使わずに希望を1文で書いてみる。この語を使わずに書けない場合は、まだ条件として使える段階ではないと判断できます
- 下限額と希望する仕事内容を並べて、両方を満たす求人が実在するかどうかを先に確認する。両立する求人が見つかるのであれば、そもそもAとBを選ぶ必要はありません。この確認を先にすると、迷いが不要だったと分かる場合があります
- 提示を受けた段階で判断が揺れたときに立ち返れるよう、決めた基準を書き残しておく
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よくある質問
Q. 年収を優先すると、仕事内容で後悔することになりませんか?
A. 必ずしもそうとは限りません。本文で触れた通り、入社後に動かせる余地が比較的あるのは仕事内容のほうだとされます。ただしこれは「入社すれば希望の仕事に移れる」という意味ではありません。異動や担当変更の仕組みが実際に運用されているかは会社ごとに異なるため、選考の過程で確認しておくと、Aを選ぶ場合の判断材料になります。
Q. 提示された金額が下限をわずかに下回りました。やりがいで補えるでしょうか。
A. 基準1の下限は、生活が回らなくなる金額として設定したものです。したがって下回る場合は、やりがいの大小にかかわらず継続が難しくなる可能性があります。まず確認したいのは、その下限額の算出に見直せる項目が含まれていないかという点です。下限そのものを見直せないのであれば、金額の交渉余地があるか、あるいは他の選択肢を比較するか、という順番になります。
Q. どちらも決められません。決めないまま応募を進めてもよいでしょうか。
A. 応募して情報を集めること自体は、どちらを選ぶかを決める行為とは別のものです。実際の提示額や仕事内容の情報が集まると、基準1・2の判定材料が増えます。ただし内定の提示を受ける段階までに基準を決めていないと、提示された条件どうしの比較軸がないまま判断することになります。情報を集める段階と、基準を決める段階を分けて考えることをおすすめします。
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執筆者情報
本記事は、選択コラム(複数の選択肢を比較して決めたい読者に向けた記事)の執筆方針に基づき、断定的な結論や効果の保証を避け、読者自身が判断基準を持てるようになることを目的として執筆しています。実在の監修者は現時点でいないため、執筆方針の明記のみを行っています。また、個人の体験談を結論の断定材料として用いていません。給与・処遇の制度は企業ごとに異なるため、実際の条件は選考の過程でご確認ください。

